遺族年金をもらいながら働くと年金を減らされますか?
遺族基礎年金も遺族厚生年金も、減ったり止められたりはしません。
結論だけで十分かも知れませんが、もう少し説明してみます。
働きながら年金をもらうと年金が減ると言われるのは、在職老齢年金という仕組みがあるからです。ごく簡単にご説明すると在職老齢年金というのは、自分の老齢年金と給料(年金1か月分と年収の12分の1)の合計が一定額を超えると超えた分の半分の額が年金から減額されるのですが、あくまでも老齢年金にだけ適用されるので、遺族年金は関係ありません。
在職老齢年金について詳しいことはこちらのサイトをご覧ください。
https://www.nenkin.go.jp/pamphlet/kyufu.files/0000000011_0000027898.pdf
それを踏まえて、今、ご自分が働きながら遺族年金をもらっていて、社会保険に加入すると、将来の自分の年金にどのように影響するのかを見ていきましょう。私は基本的には社会保険に加入するメリットが大きいと思っています。
パートタイマーの方のように正社員よりも働く時間や日数が少ない方でも基準を満たせは社会保険の加入対象者となります。その基準は2つあって、勤めている会社の規模によって違います。ここでは法人企業(株式会社、合同会社、NPO法人、行政庁などです)だけを考えます
1)所定(残 業時間や休日・臨時出勤を含まない)の労働時間と出勤日数が正社員の3/4以上働く方
会社によって、正社員の所定労働時間は違いますが、一般的には、1週間40時間以上、1か月20日出勤のパターンが多いので、その3/4となると、1週間の労働時間は30時間以上、1か月の出勤日数が15日以上のパートタイマーの方は社会保険加入対象です。逆に言うとどちらか一方だけしか満たさない方は対象者になりません。
2)社員数(社会保険に加入している人数)が501人以上の会社に勤めている場合は次の基準を全部満たせは対象者(短時間労働者)となります。
①1週間の所定労働時間が20時間以上
②雇用期間が1年以上見込まれること
③月給が8万8千円以上であること
④学生でないこと
注)従業員が500人以下の会社でも、会社の中で労使合意に基づいて年金機構に申出をした会社であれば、上の4つの条件をすべて満たせば対象者となります。
では、こうした基準を満たして対象者となった場合に、社会保険に加入するか、働く時間や日数を減らして社会保険に入らないかはなかなか難しい選択です。加入すれば社会保険料が給料から引かれますから、今までと変わらない月給であれば手取り額は減ってしまいます。社会保険料は介護保険料も含めると、月給のほぼ15%になります。所得税は若干安くなりますが、大きな違いにはならないでしょう。
そうすると、社会保険に入るのはいいけれど、翌月から月給が15%も減ってしまっては、生活が困ってしまうという方もいらっしゃるでしょう。このあたりが現実的な問題ですが、もし働く日数や時間をもっと増やせるのでしたら、下記の状況も考慮してぜひ社会保険加入をご検討ください。
まず、遺族基礎年金だけをもらっている方の場合です。
結論から言えば、ぜひ社会保険加を積極的にご検討ください。
この遺族年金は一番下のお子様が18歳の誕生日を過ぎた直後の3月31日(高校卒業と考えてもよいです)で支給が終わってしまいます。(障害をお持ちのお子様がいる場合はその子が20歳になるまで支給されます)
その年の4月以降、遺族基礎はもう出ませんので、将来に向かっては、別の方法で収入を得なければならないです。こうした方々は、今からでも社会保険に入れるならぜひ加入してください。これはご自身が65歳以降にもらう老後の年金である老齢基礎年金と老齢厚生年金を増やすためです。
年金の額は、保険料を払った月数と、払い込んだ保険料によって決まりますから、加入月数を増やしていくことは、年金額を増やすという点でとても大事なことです。
次に、別の観点からみてみます。
もし、遺族基礎年金が終わった時のご自分の年齢が60歳未満であれば、国民年金保険料を払うか(2019年度は毎月16,410円です)免除申請をして全額・半額免除、1/4・3/4免除を適用してもらうかします。もし全額納めるとすれば、社会保険に加入して社会保険料を引かれても実質的には同じです。
でも、社会保険に入れば、老後の年金は老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方がもらえます。他方、国民年金の保険料を払った場合には老齢基礎年金のみが増えることになります。
例えば、月給が8万8千円から9万3千円(未満)の間にある方が払う厚生年金保険料は、8,052円です(2019年度)。国民年金の保険料より安いですね。これは会社が8,052円を社員のために上乗せして払っているからで、年金機構に払い込まれる保険料の総額は16,104円となっています。この上乗せ分を事業主負担と呼んでいますが、年金をもらうときに計算する払込保険料には事業主負担分も含まれます。
厚生年金保険料は月給が上がっていけば保険料も上げっていく仕組みになっているので、たとえば、自分が負担する厚生年金保険料が16,400円近辺となる月給は,175,000円から185,000円(未満)の範囲です。
社会保険のもう一つは健康保険です。厚生年金とセットになっているので、健康保険だけ入らないとか、健康保険にだけ入るということはできませんが、こちらも保険料の1/2事業主負担があり、扶養家族が何人いても保険料は変わらないので、国民健康保険料より割安になる場合もあります。
次は遺族厚生年金(同時に遺族基礎年金をもらっている方も含む)をもらっている場合です。
結論から言えば、社会保険加入のメリットをよく理解して、加入を積極的にご検討ください、ということになります。
遺族のうち配偶者に出る遺族厚生年金は、原則として生涯にわたって支給されます。
但し、配偶者については次の場合に当てはまると受給権が消滅して支給停止となります。 あとで復活するということもありません。
①再婚(事実婚を含む)したとき
②直系血族および直系姻族以外の方の養子となった時
③離縁して死亡した方との親族関係がなくなった時
④夫が死亡した時に30歳未満だった「子のない妻」が遺族厚生年金を受け取る権利を得てから5年を過ぎたとき(つまり5年間しか遺族年金が出ないケース)
⑤遺族基礎年金・遺族厚生年金を受け取っていた妻が、30歳に到達する前に遺族基礎年金を受け取る権利がなくなり、その権利がなくなってから5年を経過したとき
遺族厚生年金を生涯にわたって受け取れるということは、今、社会保険の保険料を払って、将来、自分の老齢厚生年金がもらえるときになったら、遺族厚生年金はどうなるのか、が一番知りたいところですね。
この場合は、ご自身が65歳になると、自分の老齢厚生年金がもらえるようになりますから、遺族厚生年金のほうが高い場合は、ご自分の老齢厚生年金と、遺族年金との差額の両方が出ます。あくまでも差額なので両方足した金額にはならないことを知っておいてください。言い換えれば、遺族、老齢両方から年金をもらっても、合計金額は、遺族厚生年金の金額以上にはならないということです。
もし、自分の老齢厚生年金のほうが遺族厚生年金よりも高い場合には、遺族厚生年金は全く出ません。それなら、今、無理して厚生年金の保険料を払っても何もメリットがない、とお考えになるかも知れません。
でも、社会保険に入らないで国民年金の保険料全額を払うなら、事業主負担のメリットが得られる厚生年金に入ってもよいのではないかともいえるのではないでしょうか。厚生年金加入期間中は国民年金の保険料も同時に払っていることになっていますから、65歳以降、遺族厚生年金が出ないほど自分の老齢厚生年金が高いという方でも、老齢基礎年金の金額は増えます。
また、厚生年金も保険の一種ですから、遺族補償以外のリスクにも対応した年金の制度があります。それが障害厚生年金です。
誰でも障害に状態になってしまうことは想定したくないことですが、私たちは常にそうしたリスクにさらされています。障害厚生年金は比較的軽い障害程度の3級や、等級に当てはまらない場合でも障害手当金の制度があります。国民年金よりも補償が幅広いといってよいでしょう。また、仕事や通勤途中の事故により障害状態になってしまった場合に労災保険から出る障害年金と両方もらうこともできます。
以上のように、遺族年金をもらいながら働いても年金が減らされることはありません。ただし、自分が払う国民年金や厚生年金の保険料が自動的に免除になることもありません。社会保険に加入する際の検討事項をよく理解して、ご判断ください。
2019年7月7日 11:12 AM | カテゴリー:Q&A